業務内容

回転成形のいろは

設計・開発者のための回転成形技術ハンドブック

皆さんは回転成形というプラスチック製品の成形方法をご存知でしょうか?

一言で言いますと、中空製品を生産する成形方法のひとつです。

中空製品の成形方法と言いますと、国内ではブロー成形が一般的です。しかしブロー成形で生産できる製品の大きさには制約があり、金型費用も高額なため、確実な継続性を持った商品で無い限り、気軽に製品を企画できないのが実状です。

その点、回転成形は小ロット・多品種を得意とし、大きなものや意匠性の自由度が高いものまで、少額の金型投資で製品化できることから、近年改めて注目されている成形方法です。 回転成形製品の分野は日本国内では大型タンクや容器などが主流であり、一般生活の中であまり目にする事はありませんが、欧米諸国では、家具、玩具・遊具、道路安全備品、自動車部品など、その活用範囲は多岐に渡っています。

このハンドブックは、主に製品の設計・開発に携わっておられる方々を対象に、回転成形についての理解を深めて頂き、日々の開発業務にお役立て頂けることを目的としております。 これを機に、回転成形を皆様のモノづくりのレパートリーの一つとして加えて頂くことができれば幸いです。

回転成形のプロセス

まず始めに、回転成形の基本的な原理からご説明します。成形のプロセスは以下の4つに分けられます。

1.原料投入

金型内部に必要量の原料を投入します。原料は次の加熱工程で溶融しやすいように樹脂ペレットを微粉砕し、0.5mm径程度の粉末に加工してあります。投入が完了すれば金型のフランジ部分をボルトやクランプで固定し、型締めを行います。

4.取り出し

型締めをしていたボルトやクランプを取り外し、成形品を取り出します。製品の仕様によっては取り出し後に形状保持のため治具を装着して収縮を拘束することもあります。

2.加熱

金型をバーナーや熱風などで加熱しながら回転させることで、投入した原料は溶融し金型内部への付着が始まります。加熱時間は金型の材質・形状、原料の種類・投入量により、数分から数時間と変化します。

3.冷却

原料が全て溶融し、金型内面への付着が完了すれば、冷却工程に移ります。基本的には回転させたまま自然放冷しますが、時には時間短縮のため水冷却を用いる場合もあります。原料樹脂の軟化温度を下回れば冷却は完了します。

回転成形機の種類

一軸回転+揺動運動

振り子状に左右に大きく揺れる台の上で金型が回転します。構造が単純なため、設備や金型を大型化することが比較的容易で、単純形状や長尺、大容量の成形に適しています。

二軸回転

二軸運動により、金型を惑星運動させます。複雑な動きをするので、搭載できる金型のサイズには限界がありますが、凹凸の多い非対称の複雑な形状を成形することができます。

加熱方式

直火式

金型をバーナーなどで直接加熱します。一見単純なようですが、局部的な肉厚化や多彩な成形アレンジが可能です。

熱風循環オーブン式

オーブンの中に金型を入れて加熱します。管理された成形条件下での安定成形を得意としますが、
成形アレンジのレパートリーとしては制約も多く、大量生産向けといえます。

媒体循環式

オイルなどの熱媒体を直接金型に循環させて加熱します。加熱・冷却効率に優れ、細かい温度制御ができるので、
より条件のシビアな樹脂も扱えるようになって来ました。

呼称加熱方式回転方式搭載型数備考
ロックンロール 直火 1軸回転+揺動 1 長さ約4mまで、直径約3mまで。
容量約2万L程度。単純形状向き。
ロッキングオーブン 熱風循環
オーブン
1軸回転+揺動 1 長さ約7mまで、直径約3.3mまで。
容量約5万L程度。単純形状向き。
シャトル 熱風循環
オーブン
2軸回転 2~6

最大対角約2.4mまで。凸凹多い非対称形向き。

金型サイズにより搭載型数は異なる。

インディペンダントアーム 熱風循環
オーブン
2軸回転 4~6

最大対角約1.5mまで。凸凹多い非対称形、量産向き。

金型サイズにより搭載型数は異なる。

オイルジャケット 媒体循環 2軸回転 1 最大対角約500mmまで。
凸凹多い非対称形、高い難易度の樹脂向き。
ロックンロール直火   シャトル   インディペンデントアーム  
ロックンロール直火   シャトル   インディペンデントアーム   オイルジャケット

回転成形の7つのメリット

自由度の高いデザイン

金型自体を回転させることにより原料が隅々まで行き渡りますので、複雑な形状でも成形が可能です。また、機械動作によるピンやイジェクトを持たないため、凹凸や起伏の多い形状にも対応できます。

大型中空成形が可能

設備や金型の構造が簡単なため、製品を大型化することが容易です。使用する金型や成形機の種類にもよりますが、最大で全長7メートルもの大型成形が可能です。

小ロット・多品種への対応が容易

ここに紹介するのは極端な例ですが、他の成形法ではロットが大きくなったり、時には金型の再製作で莫大な費用が掛かるようなケースでも、回転成形なら大丈夫です。

「○○本の注文をしたいが、1本だけ別の色にしたい。」

「人が座る場所に強度が必要。部分的に肉厚にしたい。」

「イメージより重かった。全体に肉厚を薄くしたい。」

特徴的な肉厚分布と高い耐衝撃性

成形時に原料の滞留時間が長い箇所、すなわちコーナーや稜線部分は肉厚になります。これは、ブロー成形とは正反対の特徴で、構造強度面において有利な点といえます。また、他の成形法のように、成形時に圧力をかける事がないため、残留応力も極端に少なく耐衝撃性も向上します。

金型が安く早く作れる

主として回転成形に用いられる板金金型は2.3mm厚の鋼板の溶接により形状が構成されているため、加工性に優れ、切削のロスによる材料費が掛からない分安く、しかも早く製作できます。

多層化による高機能化が図れる

異なる種類の樹脂や顔料・添加剤を配合した原料を成形途中で投入する事により多層成形が可能です。製品外面と内面の色が異なる2色成形や発泡剤を配合した原料を中間層とする発泡3層成形などがその代表例で、単層品では得られない外観や機能性を付加できます。

ネジ類や補強パーツのインサート成形が可能

射出成形やブロー成形などと同様に部品を組み込んだインサート成形を得意とし、かなり大型のアングル補強部品などを装着する事も可能です。

 

原料:ポリエチレン回転成形ブロー成形射出成形
強度
形状複雑性
大型製品の成形
小ロット・多品種 × ×
肉厚均一性
安価な金型投資 ×
複雑なインサート
アンダーカット
穴の開いた部品 × ×
◎ : 優れる / ○ : 普通(ブローを基準) / △ : 劣る / × : 不適切

製品例

回転成形の特徴を活かした製品は、以下のような展開がなされています。

家具類

屋内外の大型テーブル・ベンチなど、 意匠性を重視したデザイン家具

家庭用品

ペットハウス、郵便受け、 テラコッタ調に代表されるプランター類

収納・備蓄用品

楽器等の保護ケース、梱包・輸送ボックス、 工業&農業用タンク、大型容器、雨水タンク

照明・看板灯

街路灯のグローブ、 サインボード、交通保安機材

玩具・遊具

公園のユニット遊具・滑り台、 室内玩具(滑り台、プレイハウス)、カヌー

医療・福祉用品

医療用備品のカート、 介護用バスタブ、救命担架

車両関連

運送ボックス、保冷車ユニット、小型車両のボディ 燃料タンク、作動油タンク、排気ダクト

小型ブース

移動可能な店舗ユニット、 アーケードゲームのブース、簡易トイレ

回転成形業界の更なる発展を目指して、メーカーとその関連技術者、工業デザイナーなどを中心とする各種協会が世界の各エリアで活発な活動を見せつつあります。 そのアプローチの一つとしてイタリアのAISRという団体が主催したデザインコンペに応募された作品には回転成形の特徴を活かした「これからの柔軟な可能性」を示唆する作品が多数見られます。

AISRのホームページ http://www.rotationaldesign.org/

製品設計ガイドライン

プラスチックは熱可塑性樹脂と呼ばれる通り、熱=温度に対して特定の依存性を持っています。
右に示す5つは、製品設計段階において、形状や寸法・物性を左右する大変重要なファクターとなります。

一例をあげますと、回転成形によく使用されるポリエチレンの収縮率は一般に3%といわれていますが、実際には樹脂の密度、形状、拘束箇所により大きく左右され、2.5~3.5%程度の寸法収縮は発生します。
金型寸法は製品寸法に予想される収縮率を加味して決められます。

素材 低密度ポリエチレン(LLDPE)が最も一般的です。以降の項目も、
ポリエチレンの使用を前提にしています。
基本形状 大きな平面をもつ形状の場合、数箇所にU字溝で平面を分割&補強したり、
緩やかな曲面形状にすると、製品形状が安定します。なお製品内部については、
金型面が接していないため、平滑性は得にくくなります。
サイズ 大きなものは全長7mのものから小さなものは300mmくらいのものまで成形可能です。
肉厚 製品サイズにもよりますが、最小肉厚3mmから原料投入量により調整できます。
寸法精度 収縮率の影響があり許容範囲は射出成形などに比べると広くなりますが、
精度確保が必要な箇所は成形品取り出し後の治具による強制や二次加工で対応します。
抜き勾配 ポリエチレンの収縮を利用することにより、1度未満の勾配設計にすることも可能です。
コーナー部 できる限り大きなRをお勧めします。箇所にもよりますが、
最小R2~5が適切な限界といえます。
直角、鋭角は成形の特性上ピンホールを招く原因となり、お勧めできません。

このような条件を計算に入れながら、希望する形状・特性を発現できる技術が、回転成形メーカーの設計ノウハウとなります。
製品設計の詳細については、回転成形メーカーとの協議の必要になりますが、ここでは大まかな目安を右に記述しております。
製品の形状や用途により、設計のポイントも異なりますので、ディテールの検討を進める前に、まずは弊社にお気軽にご相談ください。

原料

現在回転成形に用られる原料の主流はポリエチレン(以下:PE)と呼ばれる汎用の合成樹脂です。

PEは以下のような特徴を持っており、身近な使用例では灯油の容器やレジ袋等が挙げられます。

  • 比重が1未満であり軽量である。
  • 焼却しても有毒ガスが発生しない。
  • リサイクルが容易である。
  • 耐油性、耐薬品性に優れる。
  • 衝撃強度に優れる。

一般的にPEはその密度により、高密度・中密度・低密度に大別されますが、回転成形用では成形性と物性バランスに優れた直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が最もポピュラーです。これらPEに関する詳しい物性などは以下のホームページをご参照ください。

プライムポリマーのホームページ(技術情報>ポリエチレン) http://www.primepolymer.co.jp/technology/material/pe/index.html 

PEは乳白色ですので、顔料を加える事により、ご希望のカラーリングが可能です。
さらには顔料同様、種々の添加剤をブレンドすることにより、多様な性能を付加する事ができ、無機充填剤、発泡剤、静電気防止剤、抗菌剤、フレーバー剤などが実績としてあります。添加剤の開発と共にPEの用途展開もまだまだ可能性に富んでいると言えるでしょう。

他にも、回転成形で成形可能な熱可塑性樹脂には次のようなものが挙げられます。 

略号呼称特徴
PP ポリプロピレン 耐熱性、剛性
PC ポリカーボネート 高透明、高剛性、耐衝撃性
PA ポリアミド(俗称:ナイロン) 高靭性、高耐熱性、耐溶剤性
PVC ポリ塩化ビニル(半硬質~軟質) 汎用性、各種2次加工特性
  生分解性プラスチックス  

金型の種類

板金溶接金型   アルミ鋳造金型
板金溶接金型   アルミ鋳造金型

金型にも投資額と意匠性の反映において様々な種類があり、使い分けされております。
ここではブロー成形と射出成形の金型も併せて比較してみました。

 射出成形やブロー成形の金型は、内圧が著しく掛かるため高剛性が必然条件となり、また形状によってはスライド型などの機械構造が必要となる為、材料費、加工費、部品費、さらには設計工数にいたるまで、その費用は高額になります。

また追加改造も容易ではないため、製作には慎重を要し、設計工数・日数とともに、製品計画をするお客様にもその経験も問われる事となります。
一方、回転成形用金型では安価な金型費で製作でき、前述のような問題点も無く、さらには後改造も可能な為、設計を担当されるお客様にとっては比較的容易に企画立案できます。

それらの利点を利用して、例えばブロー成形等で大量生産する前のテスト量産の最適解として、回転成形を利用されるケースも増えてきております。

成形方法回転成形ブロー成形射出成形
金型種類 板金溶接 鋳造 機械切削 電気鋳造 機械切削 機械切削
素材 SS アルミニウム アルミニウム ニッケル SS SS,SUS
得意サイズ 中型〜超大型 小〜中型 小〜中型 小〜中型 小〜中型 小~中型
得意形状 主に2次曲面 3次曲面 3次曲面 3次曲面 3次曲面 3次曲面
寸法精度
増面再現性
改造の容易さ ×
成形内圧 大気圧 大気圧 大気圧 大気圧 射出樹脂圧 圧縮空気圧
製作納期
制作費
  ◎ : 優れる / ○ : 良い / △ : 劣る / × : 不適切
回転成形のいろは 小ロット・多品種を得意とし、自由度の高いデザインにも対応可能な回転成形について、設計・開発者様向けにご説明いたします。 ポリエチレンタンク劣化診断 お使いのタンクは劣化していませんか?弊社ではポリエチレンタンクの強度を診断するアフターサービスも行っております。劣化度を把握し、突然の破損・事故を防ぎましょう

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